ある人は、スノーボードの着地の瞬間にギクッと痛めたり、ある人は重たいものを持ち上げた瞬間に…といった感じで、その発生機序・受傷の仕方は様々ですよね。
同じぎっくり腰という名前でも受傷機転が異なれば、その対策も当然異なるんです。
まずはどんな負荷が加わってぎっくり腰になるのか?その負荷のパターンと対策について知りましょう。
① 1回の負荷で損傷するパターン
図はスノーモービルの着地の瞬間に腰を痛めたケースです。
腰にかかる負荷が大きすぎて、瞬間的にでも身体の持つ損傷耐性を越えてしまい、椎間板などの組織を破壊してしまう、『ケガ』的なぎっくり腰です。
このパターンはケガなので、姿勢や動作を改善しても、身体の損傷耐性を越える負荷がかかればまた痛めてしまいます。
危険なスポーツを控えるといった根本の見直しが必要なパターンです。
② 繰り返しの負荷による損傷パターン
図は、荷物の運搬作業で、同じ動作を繰り返した結果、損傷したケースです。
一回ずつの負荷は割と小さいけど、それを繰り返していく内にダメージが蓄積して損傷するパターンで、臨床でも比較的多く出会います。
改善策としては、
①作業フォームの改善(図で言うなら物を持ちあげる動作フォーム)
②連続作業回数を減らす
③作業時のコルセット着用
など。
体幹筋力強化は直接の腰痛改善にはならないと思いますが、仕事効率が上がるという意味ではありかもしれません。
ちなみに、「筋力(腹筋・背筋)が弱いから腰痛になるんだよ」というのは、本当のようなウソの話です。
それが証拠に、腹筋がバリバリに割れたボディービルダーでも腰痛持ちがたくさんいる一方で、ガリガリに痩せた腰痛知らずの人がいますよね?
腰痛の原因を筋力だけで語るのは無理があります。
③ 持続的負荷による損傷パターン
図は中腰で作業する工事現場の職人たち。
臨床的には、草むしりや風呂掃除などでずっと同じ姿勢をとっていて痛めたというケース。
1分位なら腰も耐えられるのですが、5分、10分と同じ中腰姿勢をとっていると、疲労がピークに達し損傷するパターンです。
改善策は
①腰が痛くなる姿勢(図で言うなら中腰)フォームの改善
身体の使い方を変え、頑張る場所を腰部から腹筋にシフトチェンジさせます。
腰痛持ちの多くが、活動時の腹筋参加率が著しく低く、大抵、腰背部筋で動きを作るクセがあります。
このクセを『腰椎伸展パターン』と呼ぶのですが、このパターンを繰り返している以上、腰の治療を行って組織が正常に戻っても、再び悪いフォームで作業すれば腰に負担がかかり、何度も腰痛を繰り返します。
②連続作業時間の短縮
作業途中で休憩を入れ、身体の損傷耐性が回復する時間を作ることで、ぎっくり腰発症を避けられます。
③腰背部筋群の筋力強化
持続的姿勢保持による腰痛に関しては筋力強化も無駄ではありません。
ただし腰椎伸展パターンで作業していれば、遅かれ早かれ損傷耐性が下がってきて損傷は避けられません。
一番有効で手っ取り早いのは、筋力強化よりフォームの改善です。
④作業時のコルセット着用
コルセットはアメリカ腰痛学会でのEBM評価は5段階中、最も低いE判定ですが、腰痛持ちにとってはつけ方次第では効果を感じるアイテムです。
正しいコルセットのつけ方を知らない人が意外と多いのですが、コルセットは仙腸関節を締めるように割と下に巻くのが正解です。
よく、魚屋さんやバーテンダーなど、長時間立ち続ける人が前掛けを腰の下の当たりで締めますよね?
あれは仙腸関節の動きを止め、かつ、中殿筋バンド的に中殿筋を締めると疲れにくく、腰も楽だからなんです。
まとめ
腰痛の原因は切り取り方次第では何とでも言えてしまいます。
よく巷で言われているのが、
- 不良姿勢 :腰椎前彎が強いからイケない。猫背だからダメ。座っている姿勢が悪い。
- 筋力が弱い:体幹が弱いから体幹を鍛えろ。太ったからイケない。
- 身体が硬い:老化現象で身体が硬くなったのがイケない。
- 蓄積疲労 :長時間、立っている仕事のせいで仕方ない。
- スポーツの不良フォーム:腰で回旋を作れ
- Etc
腰椎前彎が強くても腰痛とは無縁の人がいたり、腹筋が6つに割れ、筋肉がしっかりついているボディービルダーやサーファーでも深刻な腰痛を抱えている人がいます。
また一般的に股関節(特にハムストリングス)の硬さが腰痛の原因とされていますが、タイトハムストリングスなのに腰痛とは全く無縁の人が存在しまよね。
にもかかわらず、十把一絡げに「体幹を鍛えろ。姿勢を良くしろ」的な浅いアドバイスでは、様々な原因で発生する腰痛に対応できるはずがありません。
なぜある人は股関節が硬いのに、または腰椎前彎が強いのに腰痛にならないのか?
この理由が分かれば、おのずと腰痛を根治できるようになります。
それには、まずは問診で『日常における腰痛原因動作』を明らかにすることです。
「何をして痛めたのか?」
「今、何をすると痛むのか?」を丁寧に細かく聴取し、
3つの負荷のどれにあたるのかをはっきりさせ、対策を立てることが、腰痛根治の第一歩となります。
持続的な姿勢をとることが原因なのか?
繰り返しの動作のやり方がいけないのか?
この辺をはっきり分けて考えれば、治療方針はより具体性を帯びてくるはずです。